Profile＆主要著書

■西研（にし・けん）

　西研（にし・けん）、１９５７年、鹿児島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修士課程終了。学生時代から小阪修平、竹田青嗣らと哲学の勉強会を続ける。和光大学、朝日カルチャーセンターなどで哲学を教えつつ、執筆活動を行う。京都精華大学、和光大学を経て現在東京医大教授。哲学を一人ひとりが深く考えるための技術として〝再生〟することをたくらんでいる。

■西研を知るための９冊

（哲学の入り口に向いている本）

『哲学のモノサシ』（ＮＨＫ出版、1996）
……川村易さんのイラストとともに考える、哲学入門。哲学とは何か、哲学と科学との関係、自分の価値観をつくること、などがテーマです。

『「考える」ための小論文』（ちくま新書、森下育彦との共著、1997）
……大学入試小論文を素材として深く考え・書くための方法について述べたもの。「思考」に関心をもつ方へ。

『哲学の練習問題』（ＮＨＫ出版、1998年）
……毎日新聞（関東版）に一九九六年から九七年にかけて連載した哲学コラム。思考の仕方、人間の欲望、近代社会の特質などがテーマ。一項目が約千字なのですぐ読めます。ふたたび川村さんのイラストつき。

『はじめての哲学史』（竹田青嗣・西研編、有斐閣アルマ、1998）
……竹田さんとやっている現象学研究会の仲間で書いた哲学史。哲学者それぞれの芯を取り出すように心がけました。とくに近代哲学のおもしろさを強調した、新しい哲学史になっています。

　　人びとが抱え込むさまざまな問いに対して、多くの人間が納得しうる「原理的」な思考を鍛えてきた歴史として、哲学史を描き出す。とくに、デカルトからイギリス経験論、カント、フッサールに至る「超越論的哲学」のもつ原理的な意義を再評価し、現代思想の相対主義・懐疑主義を批判しようとしている。なかでも、「近代哲学概説」と「むすび－－哲学を生かすために」は、西の哲学観をとくに表明したものとなっている。

『哲学の味わい方』（現代書館、竹田青嗣と共著、1999）
…竹田青嗣さんとの対談本。後発近代的な世界像の崩壊、ということを念頭におきながら、恋愛、職業、社会、自我などのテーマについて原理的な思考の可能性を追究しています。

（哲学者について論じた本）

『実存からの冒険』（ちくま学芸文庫、初版は毎日新聞社、1989）
…西の初めての本で、ニーチェ、フッサール、ハイデガーを取りあげつつ、二十代までの自分の生き方を見つめて新たな出発点を置こうとしたもの。特にニーチェ論には、特別な思いがあります。

　　ポスト・モダンの思想は、唯一の真理と正義を自称する思想を徹底的に批判するものだったが、「思想の目標をどこにおけばよいのか」また「私たち一人ひとりはどこから・どうやって考えていけばいいのか」という問い（困惑）を後に残すことになった。これらの問いに対して、ニーチェ、フッサール、ハイデガーを手がかりに、答えを出そうとしたのがこの本である。ニーチェからは〈唯一の正しい世界像がどこかにあるのではない。世界像は人々の生の意欲を育むものであればよいのであり、生の意欲を阻害するとき人々はそれを書き換えようとする。その営みが思想なのだ〉という「思想の存在理由」を取り出している。さらにフッサールとハイデガーからは、みずからの世界像の成り立ちを、自身の生の感覚に立ち戻って検証することによって世界像を作り直し、かつ共有しようとする「思考の方法」を取り出している。

『ヘーゲル・大人のなりかた』（ＮＨＫブックス、1995年）
…単なる理想による現実批判は無力だと知った青年ヘーゲルが、新たな社会批判の流儀を「時代の精神」に根ざす形で築いていく姿を描き出します。

　マルクス主義的な社会批判の無効性に直面したあと、「では社会秩序の是非を何に基づいて判断すればよいのか」「そもそも、社会とその秩序をどのようなものとして理解すればよいのか」という問いが私のなかに残り続けていた。この問題を、近代の政治思想、ホッブズ、ロック、ルソー、ヘーゲルまでを読み直し、ヘーゲルを中心として整理したものがこの本である。
1.〈制度は神や自然から〝与えられた〟ものでなく人々によってつくりあげられたものであるから、都合が悪ければ改めていくことができる〉という新たな発想が「市民社会」の概念の核心であること、2.その社会を導く「法」の是非について、ルソーは人民の〈一般意志〉つまり「人々の共存のルールとしてだれもがそれを必要と認めるか」というかたちでその基準を定めたこと、
3.さらにヘーゲルの思想を、人権や民主主義の制度を、自由であろうとする人間精神の歴史的な歩みから基礎づけようとするものとして積極的に評価し、『精神現象学』と『法哲学』をその観点から読み解いている。
前半部分では、ヘーゲル哲学の生成過程を追跡し、フランス革命の引き起こしたテロリズムに直面しつつ、真に有効な具体的な社会批判の流儀を模索することによって、「時代の精神」に根ざそうとする思考が生まれたことを論証している。

『哲学的思考－－フッサール現象学の核心』（筑摩書房、2001年）
…フッサール現象学を、原理的な思考の方法を提示するものとして読み解く。

この本の柱は、大きくいって二つです。
1.現代思想の相対主義に抗って、原理的に考えるための土台をうち立てる。
　－－「〈学問の「客観性」とはどういうことか。人は善や美を生きるが、善や美ということの根拠はいったい何か〉。そうした問題を根源的に問い、確かめ、共有していくための「方法」を、フッサールはうち立てている。そしてそれは、近代哲学の歴史のなかで鍛えられてきた、主観へと立ち戻って思考する方法（超越論的な思考態度）を徹底するところに生まれたものである」（「あとがき」より）。
2.フッサール現象学の核心は、〈実存的世界〉と〈客観的世界〉のつながりの解明にあることを示す。
　－－「あらゆる物事はすべて、気分や情緒を伴いつつ私にとって現れてくる。私はこうした〈実存的世界〉を生きており、それは私が死ねばおそらく消滅するにちがいない。しかし他方で私は、私が死のうと死ぬまいと世界は客観的にある、と信じてもいる。この二つの〈世界〉はふだんの生のなかでは自然につながっているが、近代の物理学の発展は両者をするどく切り離し、〈客観的世界〉のみを唯一の現実とみなしたことによって、認識における主客一致の問題、心身問題、自然科学と精神科学の対立といった難問が生じてきた。フッサールは二つの〈世界〉の関係をあらためて問い直すことによって、これらの難問を解きほぐそうとしている」（「あとがき」より)

『大人のための哲学授業』（大和書房、2002年）